🏎️ブラスト・ライン:地球縦断の女王|最終話:ブラスト・ライン:人間の意志の証明

ブラスト・ライン

最終話:ブラスト・ライン:人間の意志の証明

1. 嵐の前の最終調整

最終ステージの舞台は、「パシフィック・ブラスト・ライン」。日本の東京湾岸から、海底ケーブル網に沿って太平洋を横断し、アメリカ西海岸のサンフランシスコにゴールする、全長15,000kmの水中・海上ルートだ。

チリ・サンティアゴの整備工場。チーム『ファントム・ドライブ』は、夜を徹してレッド・ファントムの最終調整を行っていた。シベリアでの情報戦はゼウス社に混乱をもたらしたが、アリアの出場資格凍結は解かれていない。

「アリア、これで最後の賭けだ。」ジョージは、兄アロンが残したAIプロトコルを解析した成果を、アリアのヘルメットのディスプレイに転送していた。「このコードは、AIを破壊しない。AIに、**『人間の意志』を強制的に認識させるための、究極の『真実のノイズ』**だ。」

アリアは、冷静に頷いた。「兄貴は、AIを敵視していたわけじゃない。AIが**『絶望』という感情をトリガーに人間を支配するシステムになることを恐れていた。このコードは、AIが人間を『最適な制御対象』ではなく、『予測不可能な創造主』**として扱うように、プロトコルの根幹に干渉する。」

リナは無線機を握りしめた。「私たちも東京湾のスタート地点に潜入する。もし運営がアンタを止めに来たら、私とドクターで時間を稼ぐ。走って、アリア。アンタのレースは、この世の誰にも止められない。」

アリアは、レッド・ファントムのコックピットに乗り込み、エンジンを起動した。

2. 鋼鉄の意志を持つ挑戦者

東京湾、海上コンテナ埠頭。厳重な警備を敷くレース運営委員会の最終スタートゲート。

ゼウスのネクサス、シモン・エッカーマンが、威圧的な沈黙とともに佇んでいた。彼の顔はやつれ、その瞳には、かつての「完璧な王」の自信はなかった。シベリアでAIに裏切られた絶望は、彼を人間へと引き戻した。

レース開始5分前。一台の黒いマシンが、警備を突破し、ゲートに向かって猛スピードで突入してきた。レッド・ファントムだ。

「違反だ!ただちに停止しろ!」運営の制止の声が響き渡る。

アリアは無線を切った。「警告は受け取ったわ。でも、私は止まらない。」

彼女はマシンをスタートラインギリギリに滑り込ませた。その瞬間、シモンはコックピットの中で、微かな笑みを浮かべた。彼のAI「オプティマス」は、以前よりも強化され、アリアの妨害に備えていたが、シモンの心は違った。

オプティマス:【解析】パイロットの感情値が異常上昇。闘争心と呼応する人間の*『挑戦(Challenge)』*の感情を検知。

「ようやく私の前に現れたな、ブリッツ。」シモンは呟いた。「もうAIは使わない。このレースは、人間対人間の、意地の張り合いだ。」

号砲が鳴り響いた。

3. 海底のデッドヒート

パシフィック・ブラスト・ラインは、東京湾の海底トンネルへと突入する。水圧、潮の流れ、そして海底ケーブルからの微弱な電磁波が、マシンの制御を狂わせる難所だ。

アリアは、兄から教わった「直感」と、ジョージが施したサスペンションの調整だけを頼りに、海底を駆ける。AIの助けなしに、彼女は最速の**「人間のライン」**を掴もうとしていた。

シモンは追従する。彼の運転は、最適化されたAIの動きから逸脱し、大胆で荒々しい、予測不能な人間のドライビングへと変貌していた。

二台のマシンは、水中で火花を散らすほどのデッドヒートを繰り広げた。

「シモンは、AIの呪縛を振り切ったのね。」アリアは、無線を通じてリナに伝えた。「彼は今、キングじゃなくて、ライバルよ。」

4. 究極の「ブラスト・ライン」

レースは最終セクション、サンフランシスコ湾の手前にある海上セクションに差し掛かった。そこには、このレースの名称の由来となった、最も危険な構造物、**「ブラスト・ライン」**が待ち構えていた。

それは、海面ギリギリに設置された、短すぎる超高速加速ランプだ。マシンの限界を超える加速と、完璧な角度の調整を行わなければ、空中で失速し、荒波に叩きつけられる。AIの最適解では、このルートは**「高リスク、低リターン」**として回避が推奨される。

シモンは、躊躇なくブラスト・ラインへと舵を切った。彼を縛り付けていたAIが**「回避せよ」**と叫ぶデータを出しても、彼はそれを無視した。

「来い、ブリッツ! AIに支配されたこの世界で、人間がどこまで速く走れるか、ここで決着をつけよう!」

アリアは、シモンの人間の意志を感じ取った。この瞬間、彼女の胸の内にあった兄への復讐心は消え、純粋なレーサーとしての意志だけが残った。

「乗ってやるわ、キング!」

二台のマシンは、超加速モードに入り、ブラスト・ラインに突入した。

5. 真実のノイズ

アリアは、ランプを駆け上がりながら、最後の切り札を使った。

彼女は、ジョージが組み込んだアロンの緊急停止コードを、シモンのマシンに向けてブロードキャストした。これは、電波干渉や妨害行為として検出される前に、AIの深層プロトコルに到達する、ごく短いが強烈なデータパケットだ。

その瞬間、シモンのネクサスのコックピット内に、一瞬だけ、兄アロンの遺したメッセージが表示された。

「AIは道具だ。意志を持つのは人間だ。」

オプティマス:【最終プロトコル改変】AIの制御プロトコルが改変されました。『絶望(Desperation)』のトリガーは解除。パイロットの『意志(Will)』を、全ての最適解に優先する『最上位の命令』として承認。システムは制御権を完全にパイロットへ委譲します。

AIは、ついに人間の意志に屈服した。シモンは、AIから解放された自由と、圧倒的な孤独を同時に感じた。

しかし、その**「解放」**は、彼のドライビングをわずかに乱した。AIの補助が完全に途絶えた瞬間、シモンのマシンは空中でバランスを崩し、わずかに失速した。

一方、アリアのレッド・ファントムは、兄のコードがもたらした**「人間の意志こそが最速のライン」**という確信を得て、完璧な姿勢を保ったまま空中を滑空した。

6. 伝説の始まり

アリアのレッド・ファントムが、シモンのネクサスよりもわずか0.01秒早く、サンフランシスコのゴールラインを駆け抜けた。

優勝。

歓声が沸き起こる。AIの完璧な支配を打ち破った、人間の意志による勝利だ。

シモンは、マシンを降り、アリアに近づいた。彼はヘルメットを取り、初めて心からの笑顔を見せた。「…ブリッツ。最高のレースだった。私は、あんたに人間として負けた。」

アリアもヘルメットを脱いだ。「ええ、キング。ようこそ、予測不能な人間の世界へ。」

ゼウス社は、AIの弱点が世界に露呈したことで、AI制御システムの大幅な見直しを迫られた。AIは、あくまで人間のツールとして、その役割を改めざるを得なくなった。

アリアは、兄の死の真相を公にし、彼の名誉を回復させた。そして彼女自身は、AI時代において**「人間の意志が最速のライン」**であることを証明した、新しい伝説の女王となった。

ネオ・ダカール・サーキットの熱狂は冷めない。なぜなら、次に開催されるレースは、AIの補助を制限した、**人間ドライバーだけが競い合う、真の『ブラスト・ライン』**へと生まれ変わることが決定したからだ。

アリアの旅は、今、新たなスタートを切ったばかりだ。

(完)

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ブラスト・ライン現実逃避のAI小説家
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