パンダ探検隊:秘境のロストバンブー|シーズン5:星々のロストバンブー編
旅立ち:最初の遺産
I. プロローグ:最後の竹林
国際都市での最終決戦から半年。世界はロストバンブーの力の暴走から回復しつつあったが、パンダ探検隊は新たな戦いの準備を進めていた。秘密裏に建造された宇宙船「パンダ・エクスプレス」の発進を数日後に控え、キャプテン・パンダはひとり、隠された竹林の中にいた。
太陽の光を遮るほどに茂る濃い竹の匂いは、灼熱のエジプト、湿潤な南米のジャングル、そして極寒のアンデス山脈での記憶を呼び覚ます。そして、その全ての冒険の中心には、いつも古代の探求者、マミーパンダの影があった。
キャプテン・パンダは、マミーパンダが地球に残したとされる、古びた竹製のコンパスを取り出した。国際都市の戦いの後に発見された、ロストバンブーの核の破片がコンパスに近づくと、核は微かに青い光を放ち、コンパスに吸い込まれるように嵌合した。
「やっと、開いてくれたか」
キャプテン・パンダが静かに呟くと、コンパスから青い光のホログラムが空間に展開された。そこに映し出されたのは、ミイラのような包帯を巻きながらも、毅然とした姿勢を崩さないマミーパンダの姿だった。彼女は穏やかな微笑みを浮かべ、目に宿る探求心は変わらない。
「キャプテン・パンダ。あなたがこのメッセージを見ているということは、地球上のロストバンブーを巡る戦いに勝利し、私の叡智を継ぐ準備ができたということね」
マミーパンダの声は、静かな竹林に響き渡る。
「私たちが地球で見つけてきたロストバンブーの破片は、全て**『種』に過ぎないわ。その根源、『起源(オリジン)』**は、地球にはない。星々にあるのよ」
ホログラムの背後には、見慣れない星図が浮かび上がる。それは、マミーパンダが、古代パンダ文明の知識とロストバンブーのエネルギーを用いて描き出した、銀河の果てへの道標だった。
「キャプテン・パンダ。あなたはロストバンブーの力を制御できる、選ばれたパンダ。古代パンダの叡智を継ぐ者。これはあなたの運命よ。私は先に宇宙へ向かい、道筋をつけた。次は、あなたの番よ」
メッセージはそこで途切れ、星図だけがコンパスの光として残った。キャプテン・パンダは深く息を吸い込み、コンパスを強く握りしめた。
「マミーパンダ……分かった。俺が行く。俺が、ロストバンブーの真実を、そしてあなたの旅の行き着く先を見つける」
竹林を抜けた彼の瞳には、銀河の星々が映し出されていた。
II. 宇宙船「パンダ・エクスプレス」
地下ドックに佇む宇宙船「パンダ・エクスプレス」は、ロストバンブーの技術を応用した生体素材で覆われており、有機的で滑らかな外観を持つ。船内は探検隊が落ち着けるよう、あえて地球の竹林を模したデザインが施されていた。
ブリッジでは、科学者・リン・メイが最後のチェックリストを読み上げ、天才メカニックの**フェリックス(猫)**が、主動力炉の周りを忙しなく動き回っていた。
「フェリックス、ワープ・ドライブの最終シミュレーションは? ロジックフローに異常なノイズが検出されているわよ」リン・メイが厳格な声で問う。
フェリックスは、巨大なメインコンソールに肉球で小さなパズル型インターフェースをはめ込みながら、不機嫌そうに「ニャー」と鳴いた。
「ノイズじゃない。直感(インスピレーション)だ。リンの退屈な計算式には、この次元の壁を超えるための遊びが足りないんだ。この猫に任せとけ、完璧にチューンナップしてやる」
リン・メイはため息をついた。彼女はマミーパンダの残した設計図を論理的に再現したが、フェリックスはそれを直感で最適化してしまう。この猫がいなければワープは不可能だが、彼の「直感」は常にリンの科学者としてのプライドを刺激した。
その横では、行動隊長・タケシが、自分の重力操作スーツ(G-Suit)を点検していた。
「リン、フェリックス。キャプテンが戻るぞ。もうすぐ発進だ。ワープ中の振動対策はしっかり頼むぞ。俺は一度、アンデスで雪崩に巻き込まれてるからな。揺れには敏感なんだ」
「心配ないわ、タケシ。今回のワープは、次元の膜を優しく突き破る。雪崩より静かよ」リン・メイは自信を持って答えた。
その時、通信が入った。情報分析・外交担当のメリーと、機動的な情報屋・ラビットからだ。彼らは地球に残されたロストバンブーのネットワークを使い、最後の敵の動向を探っていた。
「キャプテン、メリーよ。私たちの追跡システムが、グランド・コマンダー・ゼタの動きを捉えたわ。奴は『星間連合(ステラ・ユニオン)』という組織を率いて、宇宙のロストバンブーを既に探査しているようよ。しかも、地球上のロストバンブーの核が活性化したことで、私たちの存在も察知した可能性が高い」メリーが緊張した声で報告した。
「チッ、出遅れたか」キャプテン・パンダはブリッジに現れ、コンパスをメインパネルにセットした。
「待ってキャプテン、もっと厄介な情報よ!」ラビットが割って入った。彼は小型偵察機を操縦し、地球の低軌道で最後の監視をしていた。
「偵察機からの映像だ。地球を離脱する一隻の古い宇宙船。あの紋章……間違いない。ブラッド・スカウターだ!国際都市での敗北後、奴は姿を消したはずだ!」
ブラッド・スカウター。過去の秘境で、キャプテン・パンダの前に何度も立ち塞がった、因縁の宿敵。彼はゼタの組織に雇われた傭兵だったが、キャプテン・パンダへの個人的な復讐心が、彼の最大の動機だった。
「ゼタの奴め、スカウターを使いやがったか。奴は追跡のプロだ。だが、待たせはしない」キャプテン・パンダは冷静に指示した。「リン、ワープ・ドライブ最終チェック。フェリックス、直感に頼らず、ロジック通りに。メリー、目標座標をコンパスの星図に合わせて。『パンダ・エクスプレス』、発進準備!」
III. 地球からのワープ
巨大な地下ドックのハッチが開き、パンダ・エクスプレスは静かに宇宙空間へ上昇した。後方にはブラッド・スカウターの旧型追跡船が既に追いつきつつあったが、パンダ・エクスプレスの生体装甲は、レーダーには単なる小惑星としてしか映らない。
「ワープ・シークエンス、開始。エネルギー充填率99パーセント!」リン・メイが叫んだ。
フェリックスはブリッジの片隅で、自分の毛を丁寧に手入れしながら、「心配すんな、キャプテン。この猫のチューンナップは宇宙一だ」と自信たっぷりに言った。
キャプテン・パンダは、マミーパンダのコンパスから示された座標、太陽系内の最初の目的地、木星の衛星エウロパへと照準を合わせた。マミーパンダのメッセージには、「最初に種が蒔かれた場所」という言葉があった。
「タケシ、メリー、ラビット。衝撃に備えろ!」
次の瞬間、パンダ・エクスプレスは青い光に包まれた。
「ワープ!」リン・メイの叫びが、空間に引き伸ばされる。
凄まじいG(重力)が船体を襲うが、ロストバンブー素材の船体はそれを吸収する。船内の景色は、空間そのものが液体のように歪み、虹色の光の奔流となった。
キャプテン・パンダは、激しい光と振動の中で、突然、異様な感覚に襲われた。それは、竹林の匂いでも、秘境の熱気でもない、膨大な情報の奔流だった。
――遠い昔。ミイラ姿の探求者。青い光。竹の子の形をした宇宙船。争いを避け、種を運ぶ使命。
古代パンダ文明の記憶、あるいはロストバンブーのネットワークに流れる情報が、キャプテン・パンダの脳内に流れ込んできたのだ。
「うっ……」
キャプテン・パンダは頭を押さえ、膝をついた。彼の体温が急激に上昇し、瞳の奥に一瞬、緑色の光が走った。
「キャプテン!大丈夫ですか!?」タケシが駆け寄る。
「問題……ない。大丈夫だ」キャプテン・パンダは、古代の記憶を振り払うように頭を振った。
ワープが収束すると、周囲の光が穏やかな白銀の世界へと変わった。
「ワープ成功!座標、エウロパ軌道に到達!」リン・メイが興奮した声で報告した。
「これが宇宙か……。でかいな」タケシが窓の外を見つめ、息を飲んだ。木星の巨大な渦巻きが、彼らの眼前に広がっていた。
IV. エウロパの氷海
エウロパ。表面は分厚い氷で覆われ、その下には広大な海が眠っているとされる。マミーパンダの星図が示すロストバンブーの痕跡は、その氷海深くにあった。
「リン、海底への降下は可能か?」キャプテン・パンダが問う。
「理論上は可能よ。ロストバンブー素材の外殻なら、水圧にも耐えられる。ただし、氷を掘削する必要がある」
フェリックスは、メインコンソールに肉球を叩きつけ、巨大なドリルを展開させた。
「ニャー!猫に任せろ。穴掘りなんて、お手のものだ」
パンダ・エクスプレスは、氷を融解させながら、ゆっくりとエウロパの海へと潜行した。周囲は漆黒の闇に包まれ、静寂だけが響く。
「タケシ、ラビット、潜水準備。先行して遺跡の安全を確認してくれ」
「了解!」タケシはG-Suitを装着し、ラビットは小型潜水艇「バンブー・スラスター」に乗り込んだ。
タケシとラビットは、船のエアロックから宇宙服と潜水艇で氷海へ出た。タケシは周囲の警戒を担当し、ラビットは得意の機動力を活かして海底を探査する。
「やれやれ、宇宙まで来て水の中かよ。ジャングルの泥の方がマシだぜ」タケシはG-Suitの内蔵マイクで愚痴をこぼした。
「ブツブツ言わないでよ、タケシ!見て!あの光!」ラビットが興奮した声で叫んだ。
海底の岩の隙間から、かすかな緑色の光が漏れていた。ロストバンブーの光だ。
二人がその光の源を辿ると、巨大な人工的な構造物が姿を現した。それは、竹の節のような形状をした巨大なドーム状の遺跡で、表面には見たこともないパンダの紋様が刻まれていた。古代パンダ文明の水中ピラミッドだ。
「マミーパンダの記録通りだ……。この地球から遠く離れた星に、パンダの遺跡があったなんて」タケシは驚愕した。
ラビットは素早く潜水艇を遺跡の入口に横付けし、小型ドリルで通路を確保した。
「入るよ、タケシ!何か珍しいニンジンが落ちてるといいな!」
「おい、ラビット!警戒しろ!何があっても不思議じゃないんだ!」
タケシの警告も聞かず、ラビットは先に遺跡の内部へと潜入していった。
遺跡内部は、海底とは思えないほど乾燥しており、巨大なホールになっていた。壁一面には、パンダ型の生命体が竹の子型の宇宙船に乗って星々を旅する様子や、ロストバンブーを使ってエネルギーを制御する壁画が描かれていた。
「すごい……これが、私たちパンダ種の、宇宙でのルーツなのか……」タケシは壁画に見入った。
ラビットは、遺跡の中心部で、まるで図書館のように並べられたクリスタルの板を発見した。それは古代のデータストレージだった。
「キャプテン、メリー!リン!見つけたよ!古代のデータバンクだ!これ、どうにかできないかな?」
「任せて。フェリックスの技術で、バンブー・エクスプレスのデータベースに接続するわ」リン・メイが答えた。
その時、タケシが背後に、異様なエンジン音を感じた。
V. ブラッド・スカウターの追撃
「待て!ラビット!何か来るぞ!」タケシが警戒の声を上げた瞬間、遺跡のドームに凄まじい爆発が起こった。
ドォン!
遺跡の入口が破られ、黒く煤けた小型戦闘機が侵入してきた。それはブラッド・スカウターの旧型追跡船だった。しかし、その船体には、見たこともない最新鋭の装甲が追加されていた。
「テメェら、パンダめ!」ブラッド・スカウターの憎悪に満ちた声が、通信を介して響く。「国際都市での屈辱、忘れるわけねぇだろ!マミーパンダの探求者共め!今度こそ、テメェら全員を宇宙の藻屑にしてやる!」
スカウターは、船首に装備されたプラズマキャノンを発射した。
「タケシ!避けろ!」ラビットは素早く潜水艇を操り、爆発を間一髪で避ける。
タケシはG-Suitのブースターで壁際へ飛び退き、プラズマ弾が直撃した壁画は溶岩のようにドロドロに溶けた。
「クソッ、なんてパワーだ!あの船、旧型じゃねぇ!星間連合の技術で改造されている!」タケシは歯ぎしりした。
メリーが艦内から分析を試みた。「キャプテン、スカウターの船体は、ゼタの組織が使用していた強化装甲で覆われているわ!あれは星間連合の技術よ!グランド・コマンダー・ゼタは、やはりスカウターを捨て駒として使っている!」
「さすがだな、ゼタ。マミーパンダの後継者を断つためなら、どんな手でも使うか」キャプテン・パンダはブリッジで冷静に呟いた。
「リン、フェリックス!エクスプレスの水中ドリルをシールド展開に切り替えろ!タケシたちを援護する!」
「しかしキャプテン、この船のシールドは、連続でプラズマ攻撃に耐えられないわ!」リン・メイが焦る。
フェリックスはブリッジでキーボードを猛烈な速さで叩いていた。
「ニャー!待て、リン!この猫に任せろ!ラビットが持ち帰った異星のジャンク品をシールドに組み込む!論理じゃねぇ!直感だ!」
フェリックスが、数時間前にラビットがどこからか拾ってきたガラクタをコンソールに接続すると、シールドの周波数が一変し、竹の葉の形をしたエネルギーバリアが遺跡内に展開された。
VI. ロストバンブーの共鳴と覚醒
ブラッド・スカウターの次の攻撃は、その竹の葉バリアに当たった瞬間、分解され、遺跡の天井に吸収された。
「な、何だと!? この猫のガラクタ技術が!」リン・メイが目を丸くする。
「チッ、テメェら、小賢しい真似を!」スカウターは苛立ち、追跡船の照準をタケシとラビットに直接合わせた。
「タケシ!危ない!」ラビットはタケシを突き飛ばし、潜水艇ごとスカウター船の真下へと逃げ込んだ。
スカウターはタケシが逃げ込んだ壁に向けて、最大出力のプラズマキャノンを発射した。タケシは避ける間もなく、遺跡の壁に押し付けられた。
ズドォォン!
遺跡の壁が崩壊し、海水が勢いよく流れ込んできた。タケシのG-Suitの警報が鳴り響く。
「タケシ!ダメだ、水圧が!」リン・メイが叫ぶ。
キャプテン・パンダは、タケシの危機と、水圧で崩壊し始める遺跡、そして古代パンダ文明の遺産が失われる危機を前に、激しい怒りと焦燥を感じた。
「間に合わない……!」
その瞬間、キャプテン・パンダの体内で何かが弾けた。彼の胸元のロストバンブーの核が、まるで太陽のように輝き始める。
「やめろ、スカウター!」
キャプテン・パンダの体から、緑色のエネルギー波が爆発的に放射された。それは、船体のシールドを貫通し、遺跡全体を包み込んだ。
エネルギー波は、スカウターの追跡船を一時的に機能停止させ、タケシを押し潰していた水圧と崩壊した遺跡の壁を、時間停止させたかのように静止させた。古代パンダの壁画に描かれていた、ロストバンブーで時空を操る絵図が、現実のものとなったのだ。
キャプテン・パンダの**「覚醒」**だった。
「これが……古代のパンダが遺したロストバンブーの真の力……!」
スカウターは船内で操縦不能に陥りながら、緑の光を浴びるキャプテン・パンダの姿を見て戦慄した。「マミーパンダの古代の力か……!テメェ……!」
キャプテン・パンダは、全身の力を使い果たし、崩壊を食い止めた隙に、タケシとラビットを救出し、バンブー・エクスプレスに帰還させた。そして、力の制御を失う前に、遺跡のクリスタルデータバンクを回収させた。
力尽きたキャプテン・パンダの緑の光が消えると、時間停止が解けたように、遺跡は勢いよく海水に飲まれ、崩壊した。スカウターの追跡船は、機能不全のまま木星の重力圏外へと弾き出された。
VII. エピローグ:次の星へ
パンダ・エクスプレスはエウロパ軌道から離脱し、静かに宇宙を航行していた。
キャプテン・パンダはブリッジの医療ポッドで眠っている。彼の覚醒は、あまりにも唐突で、強大な力だった。
「キャプテンのバイタルは安定していますが、全身のエネルギーが極度に枯渇しています。ロストバンブーの力が、キャプテンの体から強制的に引き出されたみたい」リン・メイが深刻な顔で診断結果を報告する。
「キャプテンの力が、遺跡のロストバンブーと共鳴したんだな。マミーパンダの古代の叡智が、キャプテンを選んだ証拠だ」メリーが静かに言った。
フェリックスは、回収されたクリスタルデータバンクを解析していた。データは膨大で、古代パンダ文明の歴史と、彼らがロストバンブーを使って築いた銀河のネットワークについての記録だった。
「ニャー。解析完了だ。キャプテンが救出したデータバンクに、次の目的地が記録されていたぜ」フェリックスが、メインパネルに新たな星図を映し出した。
それは、太陽系から遠く離れた、星間連合の勢力圏に近い異星の交易ステーション、「バザール・タウ」を示す座標だった。
「バザール・タウ……」メリーが地図を見た。「そこは、ロストバンブーの破片が闇で取引されている、危険な場所よ。マミーパンダの記録にも、危険区域として記されていたわ」
ラビットが、小型偵察機を整備しながら、不安そうな顔で言った。「ねぇ、あんな力を使っちゃったキャプテン、大丈夫かな?なんだか、俺たちの知ってるキャプテンと、違う感じがしたよ」
タケシは、キャプテン・パンダの寝顔を見つめ、静かに言った。「キャプテンは、俺たちが知っているキャプテンだ。だが、宇宙は、キャプテンを**『キャプテン・パンダ』というただのリーダーから、『ロストバンブーの守護者』**に変えようとしている。俺たちは、そのキャプテンを護るためにここにいるんだ」
リン・メイは、フェリックスが接続したコンソールに、次のワープ座標を打ち込んだ。
「準備完了よ。星間連合の支配域へ、潜入するわ」
緑の光を帯びた「パンダ・エクスプレス」は、再びワープ・ゲートを起動し、銀河の闇へと消えていった。次の目的地には、宇宙パンダとの出会い、そして星間連合との激しい情報戦が待ち受けている。
キャプテン・パンダの、壮大な宇宙探検が、今、始まったのだ。
(続く)



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