クロスカラーウオーズ|平安異聞「七色ノ裁キ」|第三話:紅蓮の武者と、燃える正義

クロスカラーウォーズ

第三話:紅蓮の武者と、燃える正義

一. 地下の情報と、赤の胎動

紫蝶 魅音との戦闘から数日、耀の心は休まることがなかった。夜音(黒)が紫の協力で手に入れた情報、そして葵(青)の警告が、常に脳裏をよぎる。耀は、もはや陰陽寮の**「理」**を盲信するわけにはいかなかった。

「姉様、あの井戸の地下から採取した霊気は、無色の霊力の残滓以外に、微かな焔(ほむら)の波動を含んでいました」

咲耶が霊力分析の結果を報告した。

「焔…赤の力か」耀は目を細める。

赤チーム、リーダーは緋村 茜(ひむら の あかね)。「紅蓮の武者」と呼ばれる彼女は、その名の通り、一切の妥協を許さない炎の霊力で、都の穢れを焼き尽くすことを信条としていた。

「もし赤が地下の施設を狙っているのならば、彼らの目的は情報収集ではなく、完全な破壊でしょう」

咲耶の懸念は的中した。その夜、都の大通りに面した、権力を笠に着て民を苦しめていた高位貴族・藤原家の屋敷から、真っ赤な炎が天を衝いた。

耀と咲耶が現場に急行すると、藤原邸は既に紅蓮の炎に包まれていた。炎の霊力は尋常ではなく、結界を張った護衛の陰陽師たちを一瞬で焼き払う勢いだ。

二. 紅蓮の武者と、技術者の参謀

炎上する屋敷の屋根の上に、二つの影が立っていた。

一人は、緋村 茜。鍛え上げられた武者の装束に身を包み、その手に握られた異形の武具からは、地獄の業火を思わせる紅蓮の霊力が噴き出している。彼女の目は、ただひたすらに**「穢れの浄化」**という情熱的な使命に燃えていた。

その隣には、赤坂 椿(あかさか つばき)。火薬と呪符の技術者であり、赤チームの戦術参謀だ。彼女は、静かに袖の裏から取り出した**焔玉(えんぎょく)**と呼ばれる呪術的な火薬を、屋敷の残った梁へ精密に投擲していた。

「緋村 茜!直ちに鎮火させなさい!貴様らの行動は都のを乱す!」耀は屋敷の結界を急ぎ修復しながら、霊符を構えた。

茜は、炎の轟音にも負けない大声で笑った。

「白石 耀!理などと、よく言えたものだな!」

茜は、異形の武具を振り上げ、炎の壁を耀に向けて放った。

「お前の裁きは、いつも生ぬるい! 都の闇は、呪符で隠蔽できるほど浅いものではない!穢れは、穢れごと焼き尽くすのが、真の浄化だ!」

三. 焔玉の設置と、理性の計算

耀は、自らの清明結界を展開し、炎の壁を受け止めた。純白の霊力と紅蓮の霊力が衝突し、都の夜空に激しい光と熱波が迸る。

「貴様らが破壊すれば、残された証拠は消え、黒幕の利になるだけだ!」

「証拠だと?この穢れた貴族の血筋こそが、黒幕の証拠だ!」茜は怒りに燃え、更に強力な炎の霊力を叩き込む。

その時、椿が静かに口を開いた。

「白石殿。我々の目的は、単なる破壊ではありません。この貴族は、無色の存在に金銭と霊力を提供していました」

椿は、耀の清明結界の隙間を縫うように、数発の焔玉を投擲した。それは炎を生み出すのではなく、屋敷の地下構造をピンポイントで崩壊させるための術式的な爆薬だった。

「貴殿のは、いつも表面的な清浄にしか関心がない。我々は、この貴族が地下に隠した禁忌の品を、都へ流れ出す前に破壊する。これが、我々の知性による、最も効率的な浄化だ」

椿の冷たい知性が、茜の情熱を制御している。彼女の言葉は、耀のとは異なる、効率と破壊に基づく新たな正義の形を提示していた。

四. 霊力の共鳴、そして解放

耀は、茜の激しい炎と、椿の精密な焔玉の設置に挟まれ、防戦一方となる。咲耶は、姉の結界を維持するために**「白銀の散華」**の霊力を惜しみなく注ぎ込むが、紅蓮の力は圧倒的だった。

「姉様、地下の構造が崩壊します!霊力の中心部を破壊しようとしています!」咲耶が叫ぶ。

「させない!」

耀は一瞬の隙を見つけ、結界を収縮させると同時に、一点集中型の**「清明なる霊符」**を茜の武具の接合部に向けて放った。

霊符は茜の武具を直撃し、霊力の暴走で茜は大きくよろめいた。その隙に、耀は地下へと繋がる井戸のような場所へ飛び込もうとする。

しかし、その瞬間、椿が最後に投げ込んだ焔玉が、地下の**「霊力貯蔵庫」**を直撃した。

ズドドンッ!

都に響き渡る轟音と共に、地下から黒い煙が噴き出した。それは普通の煙ではなく、何らかの生命体が解放されたことを示す、禍々しい霊気の塊だった。

「しまった…!ただの貯蔵庫ではない!」椿が、初めて計算外の事態に驚愕の声を上げる。

その黒煙の中から、**異形の妖(あやかし)**が姿を現した。それは、何千年も地下に封じられていたかのように、全身が泥と霊力で固まった、古代の存在だった。

そして、その妖の胸部には、前夜、耀が井戸の霊気から感じ取った、微かに冷たく歪んだ**「無色の印」**が、禍々しく輝いていた。

五. 無色の印と、新たな脅威

「あれは…古の妖!だが、この印は…!」耀は、その禍々しい存在感に息を飲む。

茜もまた、自身の炎による浄化の後に、より大きな穢れが生まれたことに、激しい衝撃を受けていた。

「これが…無色の存在が隠したか!」

古の妖は、藤原邸の炎を、自らの霊力として吸い込み始めた。茜の紅蓮の炎が、逆に妖を強化する糧となってしまったのだ。

「馬鹿な…私の炎が…穢れを増幅させているだと!?」茜は初めて、自らの正義が、絶対的ではないことを悟り、愕然とする。

妖は、その巨大な体躯をゆっくりと動かし、都の最も穢れた場所――すなわち、権力の中枢である御所の方角へと向かい始めた。

椿は冷静に、その妖の霊力を即座に解析した。

「リーダー!あの妖は、**『色』**の霊力を吸収して成長します!我々の炎も、白石殿の純白の霊力も、すべては餌です!」

耀と茜は、敵意を忘れ、初めて共通の脅威を前にした。茜は、炎を無色の妖にぶつけるのではなく、自らの武具を地に突き刺し、防御の結界として紅蓮の霊力を広範囲に展開した。

「耀!この妖を、都へは行かせない!お前の清明結界と、私の紅蓮の力で、奴をここで封印するぞ!」

耀は頷いた。彼らの正義は対立しているが、都を守るという意志は共通している。

「了解しました、緋村殿!咲耶、私を援護!一時的に、共闘します!

紅蓮と純白の二つの色が、対立を乗り越え、無色の印を持つ新たな脅威に立ち向かうために、古都の闇で交錯した。

スポンサーリンク
クロスカラーウォーズ平安異聞 「七色ノ裁キ」
シェアする

コメント