第六話:七色の残滓、地下迷宮への降下
一. 三色の協定と、黒の誘導
羅城門の陰で結ばれた一時的な同盟は、即座に実行に移された。
白石 耀(白)は、純白の霊符による防御と精密な突破を担当。
天海 葵(青)は、水鏡の予言と情報解析によるルートの特定を担当。
白金 向日葵(黄)とゆうきは、光速の呪布と霊力の糸によるトラップの解除と市井の霊力パイプの破壊を担当する。
「同盟とはいえ、互いの正義は交わらない」葵は冷徹に言い放った。「我々の論理に基づき、貴女方の霊力の消耗は最小限に抑える」
「我々も、都の理に従う貴女を全面的に信用したわけではない」向日葵は警戒を解かない。「だが、民の霊力を奪うパイプだけは、確実に破壊する」
耀は、この歪な協力関係こそが、都の**理(ことわり)に縛られた自分にはできなかった「真の行動」**だと悟っていた。
地下への階段を降り始めると、足元に微かに漆黒の霊力の残滓が残されていることに気づいた。それは、黒崎 夜音(黒)が意図的に残した誘導の痕跡だった。夜音は同盟には参加しなかったが、地下の構造を知る彼女が、耀たちの侵攻を間接的に助けているのだ。
二. 地下の異臭と、異形の残骸
地下の禁忌実験施設は、まるで巨大な墓標のようだった。石畳は霊力で硬質化され、壁面には無数の細い霊力パイプが血管のように張り巡らされている。空気は重く、清浄な霊力を持つ耀たちにとっては、吐き気を催すほどの**「異臭」**が充満していた。
「この異臭…ただの穢れではない。霊力が、無理やり変質させられた匂いだ」咲耶が顔を覆う。
葵が水鏡を展開し、地下の霊気の流れを可視化した。
「このパイプは、都中のあらゆる**『色』**の霊力を、この施設の中枢へと吸い上げている。まるで、七色の異能を精製する炉だ」
進むにつれて、恐るべき光景が広がり始めた。部屋の中央には、かつて何らかの生物であったと思われる、異形の実験体の残骸が転がっていた。それは、半ば石化し、体中に無数のパイプが差し込まれていた。
「これは…」耀は息を飲む。
その異形の体表には、赤、緑、紫、そして、微かな白の霊力の残滓が、まるで切り取られた傷跡のように残っていた。
「これらの実験体は、過去の七色の異能者たちのなれの果てです」葵が静かに告げた。
「黒幕、すなわち**『無色の存在』は、過去から現在に至るまで、七色の血筋を狩り、その霊力を抽出・吸収し、自らの『無色の力』を創り出すための道具**としてきた」
三. 過去の記録と、裁きの残滓
葵は、実験室の隅に残された、霊力で記録された古い木簡を発見した。
「これは、**『清明なる血筋』**の長老たちが、禁忌の実験を記した記録です」
その記録によれば、長老たちは**「都の安寧」という名目で、七色の異能を持つ者たちを「不安定な穢れ」**として排除し、その霊力を裏で吸収していた。
耀の視線は、木簡の末尾に釘付けになった。そこには、数年前に耀自身が討伐し、「浄化」したはずの紫チームの一族に関する記述があった。
『紫苑の血筋は、幻術の力が強大ゆえに制御不能。白石の裁きを利用し、**「穢れ」**として一掃。その霊力は、無色の力への変換率が高い』
「私の…裁きが…」耀は、膝から崩れ落ちそうになった。
彼女が信じていた**「理」、「純白の裁き」は、すべて「無色の存在」が、自分たちにとって都合の悪い異能を排除し、霊力を奪うための計画的な誘導**だったのだ。彼女は、正義の執行者ではなく、非情な暗殺者として利用されていた。
四. 黄の破壊工作と、パイプの悲鳴
「白石殿…」向日葵は、耀の動揺を見て一瞬躊躇するが、すぐに冷静な目に戻った。
「感傷に浸っている暇はありません。貴女の涙が、地下のパイプを流れる市井の民の霊力を浄化することはできない」
向日葵は、ゆうきと共に、最も太い霊力パイプの前に立った。このパイプは、市井の貧しい民の生活霊力から穢れを抽出し、**「無色の印」**を持つ古の妖へと送り込んでいる。
向日葵は光速の呪布をパイプに巻き付け、金光の結界でパイプ内の霊力循環を停止させた。ゆうきは、霊力の糸をパイプの接合部に精密に仕掛け、一気に爆破する準備を整える。
パキィン!
パイプが破壊され、市井から奪われていた霊力が、本来の持ち主へと一気に逆流し始めた。それは、民衆の小さな**「喜び」**の霊力であり、その光が、地下の闇を一瞬だけ照らした。
「一つ破壊した。だが、まだ中枢が残っている」向日葵は息を切らしながら言った。
五. 漆黒の導きと、真の中枢
葵は、夜音の残した漆黒の霊力の誘導痕を辿った。
「夜音は、パイプの破壊だけでは意味がないことを知っています。この地下迷宮の中枢には、**『色のない力の源』**があるはずだ」
葵が指し示した先には、巨大な石造りの扉があった。扉には、七つの色の紋様が描かれていたが、中央の紋様は無色で、すべての色の力を吸い上げようとしているかのように見える。
その扉の前に、新たに漆黒の霊力の痕跡が残されていた。夜音は、この扉の解除方法を示す呪文の断片を、扉の横の石壁に刻んでいた。
「夜音は、耀の清明なる霊符と、夜音の闇夜の呪詛を組み合わせることで、この扉が開くことを示唆しています」葵が解析を終えた。
耀は、自らの純白と、自分を最も憎む漆黒が、初めて**「一つの目的」**のために手を組むことを悟った。
(夜音…貴女の憎しみは、私への復讐だけではない。この都の理への、裁きなのだ)
耀は、夜音の刻んだ呪文に自らの霊力を合わせ、清明なる霊符を扉の中央の無色の紋様に打ち込んだ。漆黒と純白の二つの霊力が扉の上で交錯し、激しい音を立てて石扉が開かれる。
扉の奥から、底知れない無色の闇が溢れ出し、耀たちを飲み込もうとしていた。そこが、すべての**「色のない力」の源泉であり、「無色の存在」**が待つ、最終決戦の舞台だった。


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